翠の風は悪戯に
 

 “眠れるキミへのジレンマ”



まろやかで優しい甘い匂いの中に
ほのかにかすかに甘酸っぱい香りも潜んでる。
花の香りだけじゃなく、
それが結実した末の果物の
瑞々しい味わいまでもを豊かに孕んでいるかのような。
そんな杏の甘やかな香りを腕の中へと見下ろして、

 “ああ良かったvv”

心地いいと安堵していればこその、
それからそれから、
大好きな場所にいるのだと感じていればこその
甘えを含んだ懐っこい香りだと知っているから。
こちらの胸のうちも、何やら甘い想いに満たされるというもので。

 「……。////」

見下ろす格好の愛しい人のお顔は、
やさしい輪郭の中、端正な造作に整っており。
眠りに没頭しているからか表情は薄いが、それでも
見ているものを惹きつける、やさしい寛容に満ちていて。

 “睫毛が長いなぁ、それに口許が…。”

伏せられた瞼を縁取る睫毛の陰が
白くてすべらかな頬の縁へ淡く落ちており。
軽く合わさった口許の危うい蠱惑はじっと見ているとドキドキを誘う。

 「…。/////////」

ああ、こんなでは彼の弟子にはなれないな、
修行が足りないと出直しを言い渡されそうだ。
腕に胸に、頬や肩に、
彼の柔らかな存在を受け止め、暖かい温みを感じ。
すうすうという健やかな寝息を聞きながら、
塑像なんかじゃあない、
生身の存在感をあれこれと感じ取れること、
くすぐったさが過ぎて駆けまわりたくなるほどの至福として
じんわりと噛みしめているイエスなのであり。

 “そんな変態さんみたいな言い方、しないでくださいな。”

場外からの評というか描写というかへ、
失敬なと思いはしたらしかったものの、
やに下がってることは隠しもしないお顔なのだから世話はなく。
まだ宵の口だが、ちょっと蒸したのでと
晩のごはんと一緒にソフトドリンクを飲むこととなって。
これからソーダ割が美味しくなるぞと、イエスが用意していた
赤ワインへフルーツを漬けたサングリア。
炭酸で割って随分と薄いのを作ってあげたのに、
相変わらず耐性がまだまだ弱いか、
普段使いのグラスに1杯であっさりとほろ酔いになっちゃった如来様。
ご飯と一緒だったから、吸収されるのもゆっくりだったそのせいか、
それは気持ちよさそうにコテンと沈没しちゃったので。
ありゃまあと座布団で枕を作ってあげて、
押入れ探ってタオルケットを引っ張り出して。
それで覆ってあげる途中、
すぐ傍らに膝をついてという間近になって、
起こさぬようにとそおっとと心がげたのでもっと至近となって、
それでと覗けた愛しい寝顔についつい惹かれて。

 『……。//////』

ここで起きたらパニック起こさないかなと思いはしたけど、
でもでも こんな最強の誘惑には勝てやしない。
ちょっとだけねと、添い寝を許してもらうことにし、
そおっとそおっと懐ろに愛しいお人を掻い込んでしまったイエスで。

 “だって、こういう格好でなきゃ、
  つくづくと見つめてのぎゅうが出来ないじゃない。”

つい先日のいつぞやも寝ていて御免と慌ててた。
出迎えないで、独りにしてて、一緒にいたのに放り出しててごめんと、
やたら私を一人にするのを謝る人だけど。
そんなに甘えただと思われてるなら心外だなぁ
もっとしっかりしなきゃだなぁ。
とはいえ、
こうやってキミの側が眠ってないとぎゅう出来ないのは、
起きてる時のブッダがまだちょっと、時々跳ね上がるほど不慣れなせいもある。
前後の会話とかですっかり和んだ末のという流れがあれば大丈夫なんだけど。
そうでないのに、ひょいと肩口に腕を回したりなんかして、
不意打ち気味に背中からおぶさるように抱っこなんかしたらまだ。
わぁあと肩先が跳ね上がり、
顔を並べたこっちの頬へ
触れてもないのに彼の頬がかあと熱くなるのが伝わって来て。

 『どうしたの? 何にもしてないよ?』
 『いやあのえっと…。//////』

人との触れ合いに免疫がないということはなく、
その聖なる手で優しい覇気を送って傷ついたものへの治癒を施したり、
心荒んだ小さきものを抱えてやって宥めたりなんてことは
ブッダだって心得ているのだろうに。
荒ぶる心を強い覇気にてやや力づくにもねじ伏せて、
話を聞けと制すことだってなくはないのだろう、
知性と品格、それへと添うた威厳とを
常にたたえて凛然としている釈迦牟尼様が。

 『な、何にもしてないなんて言わないでよ。////////』

他の人とは違う対象、そんな相手に抱きすくめられては、
意識しないでなんていられないじゃないかと、
身の内に沸き上がる動揺やときめきに
物慣れないヲトメのように初々しくも含羞みを見せ、
困ったぞ困ったぞと困惑するのが何とも可愛い。

 嫌いじゃない、むしろ好きだから振り払えない、でもでも

平静を保てないこの挙動不審を笑われないかな、
こういうところも“好き”だからこそと判ってるって?
何でそんな、キミだけ冷静に構えてられるの。
ああもう、冷静に考えを巡らせることもできない。

 『私だってあのその、
  キミの傍に居ると一番落ち着けるって言いたいのに。///////』

むしろ、告白し合うまでは、この想いに気付くまではそうだったのにと。
ちょっぴり恨めし気に言われたこともあったかなと。
恋って色々矛盾してるってこと、
1つずつ確かめ合ってる、まだまだ初々しいお二人なのでありました。






    〜Fine〜  16.05.29.


 *どうにも眠い日々が続いたせいか、
  似たような転寝話が続いてすいません。
  いつも眠いとなるのは春先だけのはずなんですけどねぇ。
  これも寄る年波なのかなぁ。(とっほっほ)

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